ステップ6

ヴィパッサナー本格版‐ラベリングのやり方

【動画による講義】

【文字による講義】

本格版はラベリングをします。この講義ではどのようにするかを学びます。

簡易版で、坐る瞑想の腹部の動きの観察・気づき、歩く瞑想で足・足の動き・感覚への気づき、そして現れた心身の現象に気づくことをしました。ラベリングはそれらの気づきに言葉をつけます。

坐る瞑想では腹部の動き、歩く瞑想では足と、瞑想によって基本として気づく対象がありますが、それらの気づき・ラベリングも含めて次のようにします。

例えば、坐る瞑想の場合

 簡易版は次のようにしました。

  • 腹部の膨らみ、縮みが現れた瞬間に気づき、膨らみ、縮みの過程、終わり、間に気づく。
  • そして、心身の現象が現れた瞬間にそれに気づいたら、腹部の観察・気づきに戻る。

 本格版は次のようにします。

  • 腹部の膨らみの瞬間に気づき「膨らみ」とラベリング、膨らんでいく過程に気づき続けラベリングも「膨らみ、膨らみ…」と続け、膨らみの終わりに気づく
  • 間に気づき、縮みの瞬間に気づき「縮み」とラベリング、縮んでいく過程に気づき続けラベリングも「縮み、縮み…」と続け、縮みの終わりに気づく。
  • そうしていて心身の現象が現れたら、瞬間に気づき・ラベリング、それが現れている間は気づき続けラベリングも続けて、それが消えたら腹部の観察・気づき・ラベリングに戻る。

ラベリングをするタイミング

次を心がけます。

気づく確実性を高めるために

簡易版以上に現象の現れの瞬間を逃さずに気づいてラベリングすると心がけます。

現れたらその瞬間に気づきラベリングする、現象が生起したタイミングとラベリングするタイミングをできるだけ合わせるようにします。

自分の心身の現象に気づく力が低い間は現象を見落としたり気づくタイミングが遅いですが、そうすると気づきの速さ、確実性が高くなり力がいっそう開発されます。

気づいている強さを高めるために

現象が現れ続けている間は、その瞬間瞬間の現れに細かく気づくようにして、それに合わせてラベリングするように心がけます。

坐る瞑想の場合なら、簡易版は現象の現れに気づいたら腹部の観察・気づきに戻りましたが、本格版は現れた現象の現れがなくなるまでは現われに気づき続け・ラベリングも続けます。他の瞑想でも日常でもそうします。

 例えば

  • 思考が現れたらすぐ気づき「考え」や「考えている」等とすぐにラベリングして、現れが現れ続けている間は現れの瞬間瞬間に気づき「考え、考え…」「考えている、考えている…」等とラベリングも続けます。
  • 記憶や想像が現れたらすぐに気づき「記憶」や「思い出している」「想像」等とすぐラベリングして、現われが現れ続けている間は現れの瞬間瞬間に気づき「記憶、記憶…」「思い出している、思い出している…」「想像、想像…」「想像している、想像している…」等とラベリングも続けます。
  • 感情や心の状態が現れたら、現れた瞬間に現われに気づき「好意の感情」や「好ましいと感じている」「怒りの感情」や「怒りを感じている」等とありのままにラベリングし、現れが現れ続けている間はただ瞬間瞬間の現われに気づくようにして、ラベリングも「好意の感情、好意の感情…」「好ましいと感じている、好ましいと感じている…」や「怒りの感情、怒りの感情…」「怒りを感じている、怒りを感じている…」等と続けます。
  • カユミや痛みなどの感覚が現れたら、すぐその感覚の現れに気づくようにして「かゆみ」「痛み」等とラベリングし、それらの現れが消えるまで平静に、それらの現れの瞬間瞬間に気づくようにして「かゆみ、かゆみ…」「痛み、痛み…」等とラベリングし続けます。

こうすると、気づきの焦点がぶれにくい集中力のある気づきの力が開発されてきて、気づいた瞬間や現象が連続して現れている間の気づきが強くなります。

変化・プロセスに気づくために

心身の現象の現れに気づいてラベリングをしていると、現れている現象の思考や記憶や想像、感情や心の状態、感覚が変化するときがあります。

そのときはそのときで、その変化した現象の瞬間瞬間の現れに気づくようにして、その現れに合った言葉でラベリングをします。

 例えば

  • ある人の記憶の像が現れて気づき「記憶、記憶…」とラベリングをしていて、思い出が現れてきたら、それに気づき「思い出、思い出…」等とラベリングします。さらに悲しさが現れたら、それに気づき「悲しさ、悲しさ…」や「悲しい感情、悲しい感情…」等とラベリングします。現われが現れている間、気づきラベリングを続けます。
  • 痛みの感覚に気づき「痛み、痛み…」とラベリングをしていて、何らかの思いや感情、心の状態、たとえば苦しい、辛い、イライラなどが現れたら、それはそのまま気づき「苦しみ、苦しみ…」や「苦しいと感じている」「辛いと感じている」「イライラを感じている」等とラべリングします。それが現れている間は気づき続けラベリングし続けます。
  • カユミに気づき「かゆみ、かゆみ…」とラベリングしていてカユミをかきたい等の心が現れたら、それにそのまま気づき「かきたいと思っている…」等とラベリングします。
  • 退屈した気持ちが現れて気づき「退屈している、退屈している…」とラベリングをしていて瞑想を中止したい心が現れたら、それにそのまま気づき「やめたいと思っている…」等とラベリングします。それらの心の現われが現れている間は、その現われをありのままに気づきラベリングを続けます。

上記のように、現象の現れと現れが現れている間、その変化にも気づきラベリングをしていると現れる現象のプロセスを知ることになります。プロセスに気づける力がついてきます。

現象の消滅に気づくために

現れていた現象が消えたら、消えたと気づきラベリングもピタッとしないようにします。

すると、現象はすべて現れ消えることを明確に体験で知ることになりますが、智慧の得心には上記のプロセスの体験とこの消滅の体験が大事です。

ラベリングで使う言葉

この言葉でなければいけないということはありません。自由です。そして、どの言葉にしようかと瞑想中に考えてしまうと瞑想を阻害します。

それぞれの瞑想で使う言葉はそれぞれの瞑想のやりかたの講義でさらに説明します。共通のコツなどを説明します。

使う言葉のコツ

ヴィパッサナー瞑想の気づきは客観的にです。メタ認知は自分を客観的に認知するです。

ですから、どの言葉を使うにしても言葉に思いや感情が入らないようにして、ただ平静に唱えます。また思いや感情が影響を受けにくい言葉を選びます。言葉の影響に留意して、現れている現象に心が反応しにくい言葉で冷静・客観的に表現します。

名詞や現在進行形で

現象の現れの瞬間に気づきラベリングするとなると、あまり長い言葉では困難です。ですから短い言葉、名詞がしやすいです。

そして個人差があることですが、例えば思考が頭に浮かんだとき「考える、考える…」とラベリングすると考えるように脳が働きます。名詞の「考え、考え‥」や現在進行形の「考えている、考えている…」とラベリングすればそういう影響はあまりありません。

痛みが現れたとき「痛む、痛む」「痛い、痛い」と繰り返すと痛さを増しやすいですが、「痛み、痛み」「痛みを感じている、痛みを感じている」はそれほどでもありません。

同じ名詞でも、快感が現れたとき「快感、快感」と繰り返しラベリングすると快感を増しやすいですが、「気持ちよさ、気持ちよさ…」はそれよりはありません。「怒り、怒り」は怒りを増す可能性がありますが「怒りの感情、怒りの感情…」はそうではありません。

妄想や雑念は

思考や記憶が現れたら「妄想」や「雑念」とラベリングすると指導されていることがあります。仏教の教理ではそれらはそうですが、「妄想」「雑念」はネガティブな意味の含みがあり、繰り返すとネガティブな影響を受ける場合があります。

実際にそうなった人たちもいます。ですから、このコースでは「考え」「考えている」等、含みのない言葉にするようにしましょう。そしてもし「妄想」を使うとしたら、一般的に妄想と言われる意味の現象が現れたときに使うようにしましょう。

使う言葉の種類などの工夫

多くの種類の言葉を使おうとすると、どの言葉にするかと意識が働く可能性があるので、特に取組みはじめの頃は単純な言葉でラベリングするほうが良いです。

ラべリングは心や頭に現れたことを正確に言葉で言い表すのが目的ではなくて、あくまで瞬間瞬間の現われに気づくための補助です。

例えば、取組み始めの頃は、思考は「考え」「考えている」等で済ませ、慣れてきたら、例えば「分析している」「思い出している」「計画している」等のように分けてラベリングします。分けると自分がどのような思考を多く繰り返しているか自覚できることなどにもなります。

なお、分けずに、この本格版のやりかたを繰り返していても、しだいに自然に意識の中で分けて認知しているようにもなってきます。

また、特定の事柄についての思いが現れて、それに瞑想のたびにも瞑想後もとらわれるようになったりすることも起こりますが、そういうような場合などは、ラベリングの言葉を臨機応変に工夫して、その現れに対処するようにします。