ステップ5

心身の現象とヴィパッサナー瞑想の気づき

ヴィパッサナー瞑想は、瞑想の取組みによってメタ認知の気づきの習性と力を開発するとともに、脳の変化、心の浄化をもたらし、それが日常の暮らしで役立つものです。

そこで、この講義では、人間の心身の現象はどういうものかと、ヴィパッサナー瞑想の気づきとの関係を学びましょう。

心身の現象の性質

心や体の現象の性質はどういうものか。

瞬間瞬間の単発のもの

例えば、私たちは何かを思い出すと自動的に関連して思考や感情や感覚、心の状態、心身の現象が進みますが、この現象の現われは瞬間瞬間、コマ切れの単発のものです。

フィルム映画は一コマ一コマ独立した写真が連続して映って一連の動画映像になりますが、心身に現れる現象もフィルム映画の一コマ一コマのように独立したものです。

つなぎによって続いて現れて、下記のように一連のことのように私たちはとらえています。

そして、単発の心身の現象(A1、A2、A3、A4…)の現れをつないで現れるようにしているのは、脳に持っている回路の自動操縦、自動反応・自動思考です。

例えば、ある人の姿が頭に現れ、次にその人との出来事、次にその人への思いというように自動反応・自動思考で現れてつながっていきます。

音を気にする心が現れて、次に何の音かの判断、その音への評価、好ましい・嫌いなどというように自動反応・自動思考で現れてつながっていきます。

足が痛いという認識が現れ、次にまた痛いという認識が続いて現れ、また痛いという認識が続いて現れ、苦しいという感情が現れ、もう嫌だ、坐るのをやめようかという考えが浮かぶというように自動反応・自動思考で現れつながっていきます。

脳が休まっていないと多く現れる

日常生活で頭を使うことを多くすると脳はエンジンがかかったままのような状態になり、自動反応・自動思考は現れやすく続きやすくなります。

また、そういう状態で瞑想をすると思考などが現れやすくなります。

瞑想の合宿や修行生活の場合は沈黙を守りますが、それは人と話すと思考することが多くなり、それにより瞑想をしたときに思考などの現われ、自動反応・自動思考も多くなるからです。

脳の回路は強化される

脳の自動反応・自動思考は持っている脳内の回路によるものですが、同じ自動反応・自動思考をすればその回路は強化されていきます。

例えば、あることが思い出されて、それをきっかけにマイナスの思考を繰り返していると、ますますそうなることが頻繁になってマイナスの思考が強くなるのは、自動反応・自動思考のままにそうなる脳の回路が強化されるからです。

心身の現象と気づきの関係

こういう心の現象に対してヴィパッサナー瞑想の「気づき」は次の働きがあります。

今この瞬間とプロセスに気づく

現われた最初の現象(A1)に気づけば

脳の自動反応・自動思考でつながる前の現れに気づくことになります。例えば、最初のある人の姿が現れた、音を気にしている、足が痛いという現れに気づくことになります。そうして今この瞬間に自分に現れた・起きたことに気づきます。

そして、脳の自動反応・自動思考でつながったこと(A2、A3、A4…)に気づけば

自動反応・自動思考で自分に現れている・起きていることに気づくとともに、自動反応・自動思考している中身に気づくことになります。こうして、無自覚ではなく、自分に今この瞬間に現れている・起きていること、そのプロセスに気づくことになります。

なお、簡易版は新たな心身の現象が現れた瞬間に気づくことを主にしているやりかたなので、このことと次の2点のことはまだ十分にできませんが、本格版になるとしっかりとできるようになれます。

気づきが自動反応・自動思考を停止

「気づき」は脳の自動反応・自動思考のつなぎの間に入り、自動反応・自動思考の現れの流れを止める力にもなります。

例えばある人の姿が現れ自動反応・自動思考でその人との出来事の記憶が現れる場合、姿が現れた時点(A1)で強い「気づき」が入るとそれ以降の現象の現われの流れを止めます。

またはそれ以降の自動反応・自動思考につながって、どこかの段階で強い「気づき」が入るとそこで流れが止まります。そうして脳の自動反応・自動思考を止めること、脳を休めることになります。

気づきの繰り返しによる脳の変化

心身の現象の現われに気づき、「気づき」によって脳の自動反応・自動思考のままになることを繰り返し停止していると脳の回路が変わってきます。

そうして、繰り返し現れるようになっていた心身の現象が現れなくなったり、現れた後の自動反応・自動思考が変わります。